「RSウイルス」と聞くと、「小さな子どもがかかる病気」と思う方も多いかもしれません。しかし近年、65歳以上のシニア世代にとっても、入院や重症化につながるおそれのある、非常に危険な感染症であることが分かってきました。
高齢者施設では、毎年、入所者の5〜10%が感染し、そのうち10〜20%が肺炎を発症し、2〜5%が亡くなるというデータも報告されています。
若い成人では「少し重い風邪」で済むことが多い一方、高齢になるほど肺炎に進行したり、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や喘息、心不全などの持病が悪化したりするリスクが高まります。特に70歳代以降は、受診が必要となるRSウイルス感染が増えることも報告されています。
今回は、シニア世代とご家族に知っておいていただきたい、RSウイルス感染症の特徴や重症化リスク、症状の見分け方、自宅でのケア方法、予防ワクチンについて分かりやすく解説します。

RSウイルス感染症「3つの特徴」
シニア世代のRSウイルス感染症には、若年層とは異なる重要な特徴があります。
初期症状が「普通の風邪」と見分けづらい
感染初期の症状は、鼻水、咳、のどの痛み、微熱など、一般的な風邪とよく似ています。シニア世代では、発熱があまり高くならず(38℃以下や微熱程度にとどまり)、「高熱が出ていないから大丈夫」と様子を見ているうちに、見過ごされやすいのが問題です。
一度かかっても生涯何度も再感染する
RSウイルスに感染しても、免疫は長く続きません。そのため、生涯にわたって何度も再感染します。加齢に伴って免疫力が低下すると、感染を防ぎにくくなります。
決定的な「特効薬」が存在しない
インフルエンザの抗ウイルス薬のように、RSウイルスそのものを退治する特効薬は、現在のところありません。そのため、症状を和らげながら回復を待つ「対症療法」が治療の基本です。
なぜ高齢になると重症化しやすいのか?
若い世代では「軽い鼻風邪」で済むことが多い一方、シニア世代では肺炎を起こしたり、入院が必要になったりするケースが少なくありません。その背景には、加齢による身体の変化や持病があります。
《 加齢に伴う「免疫老化」と呼吸機能の低下 》
加齢とともに、ウイルスを退治する免疫細胞(T細胞など)の機能が低下し、「免疫老化(イムノセンス)」が起こります。また、気道の異物を排出する「線毛運動」や、咳をするときに使う呼吸筋の働きも衰えます。


そのため、粘り気の強い痰を出しにくくなり、ウイルスが肺の奥まで侵入しやすくなります。
《 持病の急性増悪を招くことも 》
特に、以下の持病がある方は、重症化のリスクが大きく高まります。
- 慢性呼吸器疾患(COPD、気管支喘息など)
- 慢性心疾患(心不全、冠動脈疾患など)
- 代謝性疾患・その他(糖尿病、慢性腎臓病、がん治療中など)

RSウイルスに感染すると、強い炎症によって持病(心不全の発作やCOPDの急性増悪など)を急激に悪化させ、命に関わる事態を引き起こすことがあります。
年齢が上がるにつれて重症化リスクも高まり、65〜74歳では若年層の約2倍、75〜84歳では約3.19倍、85歳以上では約4.28倍に達するというデータもあります。
風邪とどう違う?症状の経過と「すぐ受診すべきサイン」
RSウイルスの潜伏期間はおよそ2〜8日(典型的には4〜5日)です。
《 症状の経過 》
- 初期(1〜3日目): 鼻水、鼻づまり、のどの違和感、くしゃみ、微熱、食欲低下などが見られます。
- 中期〜進行期(3日目以降): 頑固で激しい咳や、黄色く粘り気の強い痰が現れます。感染が気管支や肺に広がると、「ゼーゼー、ヒューヒュー」という喘鳴(ぜんめい)や強い息苦しさが現れることがあります。
《 受診を急ぐべき危険なサイン 》
以下の症状が見られたら、自己判断で様子を見ず、速やかに医療機関を受診してください。
- 呼吸が苦しい、息切れが強い(肩で息をしている、話すのが苦しい)
- パルスオキシメーターで測った血中酸素飽和度(SpO2)が93%以下
- 38.5℃以上の高熱が3日以上続く
- 水分が摂れず、尿量が少ない(脱水の兆候)
- 意識がぼんやりする、いつもより急にふらつく
- 心臓や肺の持病の症状が急激に悪化する
自宅でできる療養とケアのポイント
軽症で自宅療養する場合や、ご家族がケアをする場合は、次の点を心がけましょう。
常温の水や白湯でこまめな水分補給
発熱や咳による脱水を防ぐだけでなく、水分補給には固くなった痰をやわらかくし、出しやすくする効果もあります。一度にたくさん飲めない場合は、お猪口などを使い、1〜2時間おきに少量ずつ飲みましょう。
室内の加湿(50〜60%)と換気
部屋が乾燥すると気道への刺激が強まり、咳や痰が悪化します。加湿器などを活用して室内の湿度を50〜60%に保ち、1日に2〜3回程度換気しましょう。
排痰(痰出し)の姿勢と工夫
自力で痰を出しにくいときは、椅子に座り、テーブルにクッションを置いて上半身を少し前に倒すと、呼吸筋が働きやすくなります。また、「ゴホン」と強く咳き込む代わりに、口を開けて「ハッ、ハッ」と強く息を吐き出す(ハッフィング)と、奥の痰を手前に移動させやすくなります。
家庭内での感染防止(特にお孫さんからの感染)
RSウイルスは、保育園や幼稚園に通う小さな子ども(お孫さんなど)から家庭内で感染することも多いため、注意が必要です。
- 石鹸と流水による20秒以上の丁寧な手洗いを徹底する。
- 咳が出るときはマスクを着用し、タオルやコップの共用を避ける。
- ドアノブやリモコンなど、手で触れる場所は定期的に掃除・消毒しましょう。
最大の防衛策!「RSウイルスワクチン」の活用
RSウイルス感染症には決定的な治療薬がないため、「予防」が最大の武器となります。


現在日本では、60歳以上の方を対象とした「RSウイルスワクチン(アレックスビー等)」が承認されており、接種を受けられますね。
- 対象: 60歳以上の方(特に心肺疾患、糖尿病、免疫低下などの持病がある方)
- 効果: 60歳以上の方の下気道疾患(気管支炎や肺炎など)の発症を80%以上予防する効果が確認されています。
- 接種方法: 1回の筋肉注射(任意接種)
心臓や肺に持病がある方、または75歳以上の方は、重症化を防ぐためにも、かかりつけ医にワクチン接種について相談することをおすすめします。
おわりに
「ただの風邪」と思わずに早めの対応を
RSウイルス感染症は、子どもだけの病気ではありません。65歳以上のシニア世代にとっては、インフルエンザにも匹敵する、注意が必要な感染症です。
最も大切なのは、「熱がそれほど高くないから大丈夫」と判断しないことです。高齢者では、肺炎や持病の悪化が先に現れることもあります。咳が長引く、数日たって強くなる、息苦しさや息切れが増す、食欲や元気が急に落ちるなどの変化があれば、早めにかかりつけ医に相談しましょう。

日頃からの手洗い・換気・加湿・ワクチン接種で、大切な健康を守っていきましょう!
※ 本記事は情報提供を目的としています。気になる症状がある場合や、ワクチン接種を検討する際は、かかりつけ医にご相談ください。
《 参考情報 》



