夏場に特に注意が必要な感染症の一つとして「レジオネラ肺炎」が挙げられます。この疾患は特にシニア世代の高齢者にとって深刻な脅威となります。加齢に伴う免疫機能の低下により、感染した場合には症状が重篤化しやすく、適切な予防と早期対応が不可欠です。

レジオネラ肺炎とは、レジオネラ属菌という環境中に広く存在する細菌によって引き起こされる肺炎の一種です。この細菌は主に人工的な水環境(温泉施設、循環式浴槽、家庭用24時間風呂、業務用加湿器、大型建築物の冷却塔など)で繁殖し、そこで増殖したレジオネラ菌を含む微細な水滴(エアロゾル)を呼吸器から吸い込むことで感染します。

重要なポイントとして、レジオネラ肺炎は人から人への直接感染はありません。つまり、感染者と接触しても感染することはなく、汚染された水環境からの曝露が唯一の感染経路です。
今回の記事では、夏季に発生頻度が高まるレジオネラ肺炎について、その病原体の特性、感染経路の詳細、典型的な臨床症状、効果的な予防策、そして最新の診断・治療法まで、専門的な内容をわかりやすく解説します。
レジオネラ肺炎の原因
レジオネラ肺炎は、「レジオネラ属菌」という細菌によって引き起こされる肺炎です。この菌は、自然界の土壌や淡水中に生息していますが、人工的な水環境で増殖しやすい特性があります。
主な感染源
- 循環式浴槽(24時間風呂、ジャグジー、打たせ湯など): 適切に管理されていない浴槽水は、レジオネラ菌が増殖しやすい環境です。
- 冷却塔水: ビルや商業施設の屋上などに設置されている冷却塔の水も、菌の温床となることがあります。
- 給湯施設: 貯湯タンクや配管内で、水温が低い状態で長時間滞留するお湯で増殖することがあります。
- 加湿器: 特に非加熱式の超音波加湿器は、タンク内の水が汚染されやすいです。
感染経路
レジオネラ菌に汚染された水から発生する目に見えないほど細かい水滴(エアロゾル)を吸い込むことで感染します。シャワーや打たせ湯、ジェット噴射など、水しぶきが発生する場所での感染が多いです。人から人への感染は基本的にありません。また、汚染された水を誤って吸引・誤嚥することでも感染する場合があります。
レジオネラ肺炎の特徴
高齢者や基礎疾患(糖尿病、慢性呼吸器疾患、悪性腫瘍、免疫抑制剤使用など)がある方は、特に発症しやすく、重症化しやすい傾向があります。
- 潜伏期間: 通常2~10日。免疫状態により個人差があり、高齢者や免疫不全の方では短縮傾向にあります。
- 初期症状: 全身倦怠感、頭痛、筋肉痛、悪寒、38℃以上の高熱。風邪やインフルエンザに類似しますが、高齢者では非定型症状も現れるため注意が必要です。
- 呼吸器症状: 乾いた咳から痰を伴う咳へと進行。胸痛や呼吸困難が現れ、重症例では低酸素血症、チアノーゼ、頻呼吸などの呼吸不全兆候も見られます。
- 消化器症状: 腹痛、吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢が高頻度で出現。初期から現れることもあり、診断の重要な手がかりとなります。
- 神経症状: 意識低下、錯乱、見当識障害、幻覚、手足の震え、歩行障害、集中力低下など。一般的な市中肺炎より発生頻度が高いのが特徴です。
- 重症化: 適切な治療がない場合、症状が急速に悪化し、重症肺炎や多臓器不全を引き起こし、命に関わることがあります。高齢者は他の年齢層より死亡率が高い傾向があります。

基礎疾患のある高齢者は免疫機能低下などにより、レジオネラ肺炎感染時に症状が急速に悪化し重症化リスクが高いため、予防策の徹底と早期受診が重要です。
予防法
レジオネラ肺炎の予防には、感染源となる水環境の適切な管理が最も重要です。
家庭での対策
お風呂
- 毎日お湯を入れ替え、浴槽をこまめに清掃しましょう。
- 循環式浴槽(24時間風呂)は、取扱説明書に従い、ろ過器の管理や定期的な洗浄・消毒を行いましょう。
- 気泡発生装置やジェット噴射装置は、レジオネラ菌を拡散させる可能性があるため、使用を避けるか、清潔に保ちましょう。
- シャワーヘッドも定期的に洗浄・消毒しましょう。
加湿器
タンクの水は毎日新しい水道水に入れ替え、タンク内やノズルをこまめに洗浄・消毒しましょう。使用しない期間は水を抜いて乾燥させておきましょう。
公共施設利用時の注意
- 温泉や公衆浴場、プールなどの施設では、衛生管理が徹底されているか確認しましょう。
- 特に高齢者や免疫力が低下している方は、ジャグジーなど水しぶきが生じる場所への入浴は慎重に検討しましょう。

治療法
レジオネラ肺炎は、一般的な肺炎とは異なり、レジオネラ菌に効果のある特定の抗菌薬(抗生物質)での治療が必要です。
- 早期診断: 早期にレジオネラ肺炎と診断し、適切な治療を開始することが重症化を防ぐ上で非常に重要です。尿中抗原検査などで比較的迅速に診断が可能です。
- 抗菌薬治療
- ニューキノロン系抗菌薬(レボフロキサシンなど)やマクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシンなど)が主に用いられます。
- 治療期間は症状の重さにより異なりますが、7~21日以上と長期間にわたることもあります。
- 全身管理: 呼吸困難が重度の場合は酸素吸入や人工呼吸器による呼吸サポート、脱水症状があれば水分補給など、全身状態を管理する治療も並行して行われます。
おわりに
高齢者の方、特に夏季に風邪症状が長引いたり、高熱や呼吸器・消化器系の問題がある場合は、レジオネラ肺炎を疑い、早急に医療機関を受診しましょう。診察時には、最近利用した温泉やプール、24時間風呂などの水環境情報を医師に伝えてください。
レジオネラ肺炎は夏場に高齢者の発症率が高まる重篤な肺炎です。浴槽や加湿器、給湯設備の水中で増殖したレジオネラ菌をエアロゾルとして吸入することで感染します。主な症状は38℃以上の高熱、乾いた咳、呼吸困難、消化器症状で、進行が速いため迅速な対応が必要です。
予防には浴槽、加湿器、配管などの水回り設備の定期的な清掃・消毒と点検が非常に重要です。特に浴槽は毎日の洗浄と水の入れ替えを行い、加湿器は使用後に必ず水を捨てて内部を乾燥させましょう。また、長期間使用していない水道からは、最初の水を十分に流してから使用することをお勧めします。

シニア世代は、特に家庭では浴室や洗面所の清潔さに注意し、定期的な換気・乾燥を行いましょう。また、季節の変わり目や長期不在後は入念に点検・清掃することが大切ですね。
この夏は特に暑く体調を崩しやすいですが、レジオネラ肺炎についての正しい知識と適切な予防策で、しっかりと健康を守りましょう。
《 参考情報 》

