シニア世代、特に女性にとって、自分の足でしっかり歩き続けることは、充実した人生の質を保つために最も大切なことの一つです。その健康寿命を脅かす大きな要因が「骨粗しょう症」です。
骨粗しょう症は、骨の内部構造がスカスカでもろくなり、ちょっとした転倒や尻もち、日常生活の軽い衝撃で骨折しやすくなる病気です。特にシニア女性に多く、痛みなどの自覚症状が乏しいため、本人が気づかないうちに静かに進行し、「骨折して初めてわかる」ことも少なくありません。

自覚症状がないまま進行し、軽い衝撃でも骨折を起こしやすくなるため、将来の「健康寿命」を大きく左右する重要な疾患の一つですね。
本記事では、骨粗しょう症の原因やメカニズムから、最新の治療法、そして今日から実践できる具体的な予防法まで、詳しく解説します。
骨粗しょう症とは
骨粗しょう症は、骨の量(骨密度)が減り、骨の質も低下することで、骨の中身がスカスカになって脆くなる病気です。健康な骨は内部がスポンジのような構造で強度を保っていますが、骨粗しょう症が進むとこの構造が弱まり、ちょっとした転倒や尻もち、ひどい時にはくしゃみなどの軽い衝撃でも骨折しやすくなります。
日本には約1,280万人の患者がいると推計されており、そのうち約80%が女性です。シニア女性では、60代で約5人に1人、70代では約3人に1人がこの病気にかかっており、非常に身近な病気です。
なぜシニア女性に多いのか(原因)
女性に圧倒的に多い理由は、女性ホルモン「エストロゲン」の働きが深く関係しています。
- 女性ホルモンの減少: 骨は「壊す(破骨)」と「作る(骨芽)」という新陳代謝(骨代謝)を常に繰り返しています。エストロゲンは「骨が壊れすぎないよう抑えるブレーキ」の役割を果たしていますが、閉経前後で分泌が急激に低下するとブレーキが効かなくなり、骨を壊すスピードが勝ってしまいます。
- 体格とライフサイクル: 女性は男性よりももともと骨格が小さく、骨量が最も多い時期(20歳前後)の数値が低めであることも影響しています。

男女共通の原因としては、加齢により腸からのカルシウム吸収能力が低下することや、骨を作る細胞の働きが弱まることが挙げられます。
「沈黙の進行」と注意すべきサイン
骨粗しょう症の最大の特徴は、「自覚症状がほとんどない」ことです。このため「サイレント・ディジーズ(沈黙の疾患)」とも呼ばれます。
多くの方は、痛みがないまま進行し、骨折して初めて自分が骨粗しょう症だと気づきます。しかし、以下のような見た目の変化は、すでに背骨が押しつぶされる「圧迫骨折」が起きているサインかもしれません。
- 身長が若い頃より2cm以上縮んだ
- 背中が丸くなってきた、腰が曲がってきた
- 腰や背中に慢性的な痛みがある

特に注意が必要なのは、「大腿骨(太ももの付け根)」の骨折です。一度折ってしまうと歩行が困難になり、寝たきりや要介護状態になる最大の原因の一つとされています。

今日から始める「骨活」のポイント
骨の健康を守るためには、「食事」「運動」「日光浴」の3本柱が不可欠です。
食事:骨の材料と助っ人を摂る
カルシウムだけでなく、それを助ける栄養素との組み合わせが重要です。
- カルシウム(材料): 牛乳、ヨーグルト、小魚、豆腐、小松菜など。1日700〜800mgを目標にしましょう。
- ビタミンD(運び屋): カルシウムの吸収を助けます。サケ、サンマ、ブリなどの魚類やキノコ類に多く含まれます。
- ビタミンK(定着役): 骨にカルシウムを定着させます。納豆や緑黄色野菜に豊富です。
運動:骨に刺激を与える
骨は負荷がかかるほど強くなる性質があります。
- かかと落とし運動: つま先立ちからストンとかかとを落とす動作を1日30回程度。衝撃が全身の骨を刺激します。
- フラミンゴ療法: 壁やテーブルにつかまりながらの片足立ち(左右1分ずつ)。バランス感覚を養い、転倒予防にもなります。
- ウォーキング: 骨にほどよい負荷がかかり、骨密度維持に有効です。
日光浴
ビタミンDは日光(紫外線)を浴びることで皮膚でも作られます。日焼けしない程度に、夏なら木陰で30分、冬なら手や顔を出して1時間程度の散歩が推奨されています。
検査と最新の治療法
「もう年だから仕方がない」と諦める必要はありません。現在は非常に効果の高い薬が登場しており、適切な治療で骨を強くすることができます。
骨密度検査
最も正確とされる「DXA(デキサ)法」などで、腰椎や大腿骨の骨密度を測ります。閉経後や65歳以上の方は、一度検査を受けることが勧められます。

薬物療法
- 骨を壊すのを抑える薬: ビスホスホネート製剤やSERMなど。飲み薬(毎日、週1回、月1回など)や、半年に1回の注射薬(デノスマブ)もあります。
- 骨を作るのを助ける薬: 骨形成促進薬。骨折リスクが高い場合に用いられます。
- 栄養を補う薬: 活性型ビタミンD3製剤など。

おわりに:元気なうちからの備えを
骨粗しょう症対策で最も大切なのは、「痛くなってから」ではなく「元気なうちから備える」ことです。シニア世代の女性にとって、骨粗しょう症は「寝たきり・要介護」を防ぐ上で非常に重要なテーマです。
「もう年だから仕方がない」と諦める必要はありません。適切な治療と生活習慣の改善で、何歳からでも骨を強くし、骨折リスクを下げることができます。
第一歩は、「自分の骨密度を知ること」です。整形外科で検査を受け、ご自身の状態を把握しましょう。その上で、医師と相談しながら食事・運動・必要に応じた薬を組み合わせていきましょう。
骨を守ることは、自由に動ける体を守ることです。それは友人との旅行や趣味を楽しみ続ける「自由な未来」を守ることにほかなりません。これこそが、健康寿命の延伸につながるのです。
《 参考情報 》


