シニア世代にとって、肌の乾燥は非常に身近な悩みです。しかし放置すると、生活の質(QOL)を大きく低下させる深刻な問題となります。単なる「カサつき」に留まらず、かゆみ、不眠、さらには皮膚感染症につながることもあります。
この状態は医学的に「老人性乾皮症(かんぴしょう)」と呼ばれます。症状が悪化し、炎症やかゆみが強まると「皮脂欠乏性湿疹(ひしけつぼうせいしっしん)」という病名になります。

シニアの乾燥肌は「歳だから仕方ない」で済ませる必要はありません。原因と特徴を理解し、毎日の適切なケアと必要な治療を組み合わせることで、多くの場合、大幅な改善が期待できます。
本記事では、シニア世代の乾燥肌について、原因、特徴、予防とセルフケア、治療方法と受診の目安を分かりやすく解説します。
シニアの乾燥肌を引き起こす根本原因
老人性乾皮症の主な原因は、加齢による皮膚のバリア機能の低下です。
生理機能の低下
乾燥肌は、角質層の水分と皮脂膜が不足することで起こります。
- 皮脂分泌の減少:60歳を超えると皮脂分泌が急激に減少します。水分蒸発を防ぐ皮脂膜が薄くなり、バリア機能が弱まります。
- 水分保持力の低下:天然保湿因子(NMF)やセラミドなどの細胞間脂質が減少します。その結果、水分が逃げやすくなり、外部刺激に敏感になります。
- 発汗機能と血行の衰え:NMFの産生が低下し、保湿力が弱まります。血流が悪化すると栄養や酸素が届きにくくなり、肌のターンオーバーも低下します。

私の場合、50歳を過ぎてから乾燥肌の症状がひどくなりました。しかし、保湿ケアを継続したところ症状が改善し、今では悩まされることもなくなりましたね。
乾燥を悪化させる外部要因と基礎疾患
加齢による変化に加え、日常生活の習慣や環境が乾燥を悪化させます。
- 間違った入浴習慣: 41℃以上の熱いお湯やナイロンタオル、ボディブラシでの強い洗浄は、皮脂膜と角質の保湿成分を奪い、バリア機能を弱めます。
- 体内の水分不足: 高齢者は喉の渇きを感じにくくなるため、水分摂取量が少なくなりがちです。これが乾燥を助長します。
- 室内環境: 冬の暖房や夏の冷房の使用により湿度が低下すると、肌からの水分蒸発が増え、乾燥が悪化します。
- 基礎疾患: 糖尿病、腎疾患、甲状腺疾患などの全身疾患や、一部の薬(利尿薬など)が皮膚の乾燥を引き起こすことがあります。
乾燥肌の特徴と症状の進行
シニアの乾燥肌は、皮脂腺が少ない「すね(特に弁慶の泣き所)」、太ももの外側、腰、背中、上腕などに現れやすく、カサカサや粉吹きが特徴です。
症状の進行段階
- 乾皮症(乾燥状態): 皮膚の表面が白く粉を吹いたようになり、細かいひび割れや亀裂、白い鱗屑(ふけ状の皮膚片)が見られます。
- かゆみの発生: 乾燥が進むと強いかゆみを伴います。特に体温が上がる夜間や入浴後にかゆみが強まりやすいのが特徴です。
- 皮脂欠乏性湿疹(炎症): 掻きむしりや乾燥の悪化により、皮膚に赤み(炎症)が出たり、ブツブツとした湿疹ができたり、ジュクジュクしたりします。かゆみが強すぎると睡眠障害を引き起こし、夜間に何度も起きることで転倒リスクが高まることもあります。
予防とセルフケア
乾燥肌の改善には、「保湿」と「刺激を減らす」の2つが基本です。
入浴と洗い方の見直し
皮脂膜を守ることが大切です。
- 湯温と時間:お湯の温度は38〜40度程度のぬるめにします。熱すぎると皮脂が奪われるため、長湯は避け、10〜15分程度で切り上げましょう。
- 洗い方:ナイロンタオルやスポンジは避け、手のひらや柔らかいタオルで優しく洗います。石けんはよく泡立て、軽くなでるように洗いましょう。
- 石けん:低刺激で保湿成分配合のものを選びます。すねや太ももは毎日使わず、脇や足など必要な部位のみに使いましょう。

お湯の温度は40度程度で抑え、石けんは低刺激で保湿成分配合のものを選ぶようにしていますね。
正しい保湿ケア
保湿ケアは、皮膚のバリア機能を外部から補う最も重要な対策です。
- 保湿のタイミング:入浴後5分以内(理想は直後)、肌が湿っている状態で保湿剤を塗ります。
- 保湿剤の選択:ワセリン、ヘパリン類似物質、セラミド配合クリームなどがシニアに適しています。
- 塗り方と頻度:全身に優しくたっぷり塗ります。朝晩2回の保湿がかゆみ予防に効果的です。
生活環境と体内からのケア
- 湿度管理: 室内の湿度は40〜60%を目安に、加湿器や濡れタオルを干すなどで調整します。
- 衣類:肌に触れる下着は、ウールや化学繊維を避け、綿や絹などの天然素材を選びます。
- 水分・栄養:意識的に水分を摂り、たんぱく質、必須脂肪酸、ビタミンA・B群・Eをバランスよく摂取しましょう。
医療機関での治療と受診の目安
セルフケアを続けてもかゆみが治まらない、あるいは赤みや湿疹が出ている場合は、皮膚科を受診しましょう。
治療の段階

治療は「鎮静」(炎症を抑える)と「維持」(バリア機能を回復させる)の2段階で進められています。
炎症・かゆみの鎮静
-
- ステロイド外用薬:医師の指導下で炎症部位に短期間使用し、炎症とかゆみを抑えます。
- 抗ヒスタミン薬の内服:強いかゆみには内服薬を処方し、掻き壊しを防ぎます。
バリア機能の回復と維持
-
- 医療用保湿剤:炎症が治まった後、ヘパリン類似物質、尿素製剤、ワセリンなどで再発を予防します。
受診の目安
次のような症状がある場合は、乾燥性湿疹(皮脂欠乏性湿疹)に進行している可能性があります。自己判断せず、皮膚科の受診を検討してください。
- 保湿剤を2〜3週間しっかり使っても改善しない
- かゆみで夜眠れない、日中も常に掻いてしまう
- 皮膚に赤いブツブツや湿疹、じゅくじゅくした部分がある
- ひび割れから出血する、痛みや熱感を伴う
これらの内容を分かりやすくまとめた動画サイトは、以下のとおりです。ぜひご覧ください。

おわりに
シニアの肌は、「早めの保湿ケア+生活環境の見直し」という基本対策を続けることで、乾燥をかなり予防できます。ただし、乾燥が悪化すると、湿疹や感染症といった皮膚トラブルだけでは済みません。

かゆみによる睡眠障害、掻き壊しからの細菌感染、夜間のかゆみで起きた際の転倒リスクなど、全身の健康に関わる問題につながる恐れがあります。
毎日のスキンケアを、歯磨きや洗顔と同じように日常習慣として取り入れましょう。少しでも気になる症状や変化があれば、自己判断せず早めに医師に相談することが、安全で快適なシニアライフにつながります。
シニアの乾燥肌は、単なる美容の問題ではありません。悪化すると湿疹や皮膚感染症、さらには夜間のかゆみによる睡眠不足や転倒リスクまでつながり得る、全身の健康と生活の質に関わる問題です。
毎日のスキンケアを無理なく習慣化し、皮膚の状態に変化や気になる症状があれば、早めに皮膚科などの専門医に相談しましょう。適切な治療やアドバイスを受けることが、快適で安全なシニアライフを長く維持するための鍵となります。
《 参考情報 》



