ケトジェニックダイエットとは
糖質(ご飯・パン・麺類)は体内でブドウ糖に分解され、脳や筋肉のエネルギー源となります。ケトジェニックダイエットは、この糖質を1日20〜50g程度(ご飯茶碗約1/4杯分)に制限し、代わりに脂質を総エネルギーの70〜80%摂る食事法です。
一般的な日本人の食事は炭水化物が約6割を占めます。そのため、これは非常に大きな食習慣の変化と言えます。
糖質が枯渇すると、体は肝臓で脂肪を分解し「ケトン体」を作り出します。このケトン体が代替エネルギーとして使われ始めるのです。この「糖ではなく脂肪を燃やす状態(ケトーシス)」への切り替えが、ケトジェニックダイエットの仕組みです。
本記事では、シニア世代の皆様に向けて、近年注目を集める「ケトジェニックダイエット」について解説します。期待できる効果から注意すべきリスク、安全な実践方法まで、分かりやすくご紹介します。
※ このブログの内容をわかりやすくまとめたインフォグラフィックは、以下のとおりです。

シニア世代に期待できる効果
医師の管理下で正しく実践すると、シニア世代には以下のメリットが期待できます。
メタボリックシンドローム・内臓脂肪の改善
体が「脂肪燃焼モード」に切り替わり、ぽっこりお腹の原因である内臓脂肪が落ちやすくなります。日本人を対象とした研究では、8週間の実践で内臓脂肪が平均22.3%減少し、皮下脂肪以上の効果が確認されました。日本人に多い「隠れ肥満」や高血圧、脂質異常症の改善に有効です。
血糖値の安定と糖尿病予防
糖質をほとんど摂らないため、食後の急激な血糖値上昇「血糖値スパイク」が起こりません。インスリンの効きが良くなり、境界型糖尿病や2型糖尿病初期の方の血糖管理がしやすくなります。日中の眠気やだるさも軽減されます。
認知機能の低下予防(脳の若返り)
シニア世代にとって最も注目される効果です。加齢やアルツハイマー病の初期段階では、脳が「ブドウ糖」をうまくエネルギーとして使えなくなります。しかし、ケトン体は糖代謝が低下した高齢者の脳にも代替エネルギーとして供給されます。

近年では、記憶力や実行機能の改善、認知症予防につながる可能性が研究されています。
抗炎症・アンチエイジング効果
ケトン体には、体内の炎症を引き起こす物質を抑える抗炎症作用があります。慢性炎症は動脈硬化、がん、認知症など、あらゆる老化現象の土台となります。そのため、この働きは「アンチエイジング(抗老化)」として注目されています。
必ず知っておくべきリスクと注意点
効果が魅力的な一方で、若者向けの極端なやり方をシニアが無条件に取り入れるのは危険です。以下の特有のリスクを必ず押さえておきましょう。
筋肉が落ちる「サルコペニア」の恐怖
極端な糖質制限や総カロリー不足に陥ると、体はエネルギー不足を補うために筋肉(タンパク質)を分解してしまいます。シニアにとって筋肉量の減少(サルコペニア)やフレイル(虚弱)の進行は、歩行スピードの低下、転倒、骨折、さらには寝たきりへと直結します。

シニア世代では、加齢に伴い筋肉量が減少していきます。適切な糖質管理を行わないと、筋肉量の減少がさらに進みかねません。これは最も警戒すべきリスクです。
脱水症状とミネラル不足
ケトジェニックを始めると、大量の水分やミネラル(ナトリウム、カリウムなど)が体から排出されます。シニアはもともと喉の渇きを感じにくく、利尿薬などを服用している方も多いため、気づかないうちに脱水状態に陥りがちです。めまい、ふらつき、低血圧、意識低下などを引き起こすリスクが高まります。
便秘の悪化
お米や根菜類を控えることで、食物繊維や水分まで不足し、頑固な便秘になりやすくなります。特に、便秘症の方は注意が必要です。
持病や薬との危険な相性・内臓への負担
糖尿病の薬(特にSGLT2阻害薬など)やインスリン注射をしている方が急に糖質を制限すると、命に関わる低血糖発作やケトアシドーシスを起こすリスクがあります。また、多量の脂質やタンパク質を代謝するため肝臓や腎臓に負担がかかり、一部の方では悪玉コレステロールが上昇することもあります。

安全で現実的な実践法——「ゆるケト」のすすめ
シニア世代は「痩せること」より「筋肉と体力を守ること」が最優先です。安全に取り入れるための「守り重視」のやり方をご紹介します。
① 必ず主治医や管理栄養士に相談する: 糖尿病、心臓病、腎臓病などの持病がある方、複数の薬を服用している方は、絶対に自己判断で始めてはいけません。開始前に必ず専門家に相談し、筋肉量や血液検査を定期的にチェックしながら進めましょう。
② 「厳格」ではなく「ゆるやかな低糖質(ロカボ)」: 最初から糖質を1日20gにするような極端な制限ではなく、「白米やパンを減らし、甘いお菓子を控える」程度の、1日50〜100gのゆるやかな低糖質から始めるのが安全です。期間も2〜3ヶ月の短期集中とし、一生続けるものではなく期間限定の代謝改善手段と考えましょう。
③ 「タンパク質」と「水分」を最優先で摂る: 筋肉を守るため、肉、魚、卵、大豆製品などのタンパク質を毎食手のひら1杯分(体重1kgあたり1.0〜1.5g目安)しっかり食べます。また、1日1.5〜2リットルのこまめな水分補給を意識し、天然塩でミネラルも補いましょう。
④ 良質な「脂質」とたっぷりの「食物繊維」: 脂質の「質」にこだわるのが成功の鍵です。青魚(EPA・DHA)、エキストラバージンオリーブオイル、アボカド、MCTオイルなど、質の良い油を選びましょう。便秘を防ぐため、きのこ類、海藻、ほうれん草などの葉物野菜、こんにゃくをたっぷり食べることが不可欠です。
⑤ 軽い運動(筋トレ)をセットにする: 筋肉を守るには運動との組み合わせが重要です。週3回程度のウォーキング、椅子を使ったスクワット、かかと上げなど、無理のない軽い筋トレを取り入れることで、サルコペニアを防ぎながら脂質代謝を改善する効果が格段にアップします。
この記事の内容をわかりやすくまとめた動画もご用意しています。ぜひ併せてご覧ください。

最後に
ケトジェニックダイエットは、シニア世代にとって「劇薬にも良薬にもなり得る食事法」です。正しく行えば「脳の若返り」や「生活習慣病の予防」に効果を発揮しますが、極端な制限は危険です。
シニア世代が最優先すべきは「筋肉を落とさないこと」と「内臓に負担をかけすぎないこと」です。「ゆるやかな低糖質+十分なたんぱく質+こまめな水分補給+適度な運動」という安全な範囲でエッセンスを取り入れることが、寿命と生活の質を高める賢い選択と言えるでしょう。
まずはかかりつけ医に相談し、夕食のご飯を半分にするなど、1〜2ヶ月かけてゆっくりと糖質を減らしていく方法が最も安全です。ケトジェニックには体重減少や認知機能改善の可能性がある一方で、高齢者ではサルコペニア、低栄養、脱水、持病悪化などのリスクも大きいことを忘れないでください。
食べる楽しみを大切にしながら、ご自身の体調に合わせて無理なく進めてみてください。
《 参考情報 》



