今回の記事では、心臓専門医プラディップ・ジャムナダス医師(Dr. Pradip Jamnadas)が提唱する「健康寿命を延ばし、心臓病を防ぐための生活習慣」を、シニア世代にも実践しやすく解説します。

心臓病は世界的な死因の第1位であり、高齢者にとって予防は喫緊の課題です。ジャムナダス医師は「薬や手術だけでは根本解決にならない」と説きます。重要なのは、体内の「炎症」を抑え、ホルモンバランスを整えることです。
心臓外科医として30年以上、数万人の治療に携わってきた同医師は、ある衝撃的な事実に気づきました。見た目が健康そうで、糖尿病の診断も受けていない人でも、体の中では深刻な代謝異常が起きているのです。
心臓発作や脳卒中を防ぎ、いつまでも若々しくいるための鍵——それは「お腹の脂肪」と「食事の回数」に隠されています。
「内臓脂肪」と「インスリン」の関係
お腹がぽっこり出ているなら、それは危険信号です。問題なのは皮膚の下の脂肪ではなく、内臓の周りにつく「内臓脂肪」です。この脂肪は単なるエネルギーの貯蔵庫ではありません。体中に炎症を引き起こす毒素をまき散らす、厄介な存在なのです。
なぜ内臓脂肪がつくのでしょうか?最大の原因は「インスリン」というホルモンです。食事(特に糖質や加工食品)を摂ると、血糖値を下げるためにインスリンが分泌されます。インスリンには、余ったエネルギーを脂肪として蓄える働きがあります。
現代人は食事の回数が多すぎるため、血中インスリン濃度が常に高い状態です。その結果、体がインスリンに鈍感になります(インスリン抵抗性)。すると体はさらに多くのインスリンを分泌し、脂肪の蓄積、血管の損傷、心臓病リスクの上昇を招くのです。
最強の健康法——「ファスティング(断食)」のすすめ
内臓脂肪を落とすにはどうすればよいのでしょうか。ジャムナダス医師が最も効果的だと推奨するのが「ファスティング(断食)」です。
「カロリー制限」と「断食」は異なります。食事量を減らすだけでは代謝が低下し、筋肉が分解されてしまいます。一方、断食によってインスリン濃度が下がると、体は脂肪燃焼モードに切り替わります。12時間経過すると、内臓脂肪から優先的にエネルギーを使い始めるのです。
【シニアにおすすめの実践法】
まずは無理なく「12時間断食」から始めましょう。ただし、体質的に合わない方もいるため注意が必要です。
- 12:12法:夜8時に夕食を終えたら、翌朝8時までは水やお茶以外は口にしません。これだけで体内の脂肪燃焼スイッチが入ります。
- 慣れてきたら:朝食を抜くか遅らせて「16〜18時間」の空腹時間を作ると、細胞が若返る「オートファジー(自食作用)」が働きます。古い細胞や老廃物が掃除され、免疫力も高まります。
食事の見直し——避けるべきもの・摂りたいもの
「健康に良い」と思われている食品の中にも、心臓に負担をかけるものが少なくありません。
避けるべき食品
- 加工食:ハムや既製品など、工場で作られた食品は食物繊維が取り除かれており、血糖値を急上昇させます。
- 植物油(サラダ油など):オメガ6脂肪酸が多く、体内の炎症を促進します。台所から植物油をなくし、オリーブオイル、バター、ギー、ココナッツオイルに切り替えましょう。
- 果物の摂りすぎ:果物の「果糖」は肝臓で直接脂肪に変わりやすく、脂肪肝の原因になります。品種改良で糖度が高くなった現代の果物は、旬の時期に少量楽しむ程度にしましょう。
- 白米:ヒ素が含まれていることがあるため、一晩水に浸してから水を捨てて炊くのが理想です。炊いたご飯を冷蔵庫で冷やすと「レジスタントスターチ(難消化性デンプン)」に変わり、血糖値の上昇を抑え、腸内細菌のエサにもなります。
- 小麦(パン):品種改良された現代の小麦は、腸壁を傷つけるグルテンやレクチンを含みます。パンは「嗜好品」と考え、控えましょう。
積極的に摂りたいもの
- 食物繊維:野菜、海藻、キノコ類は腸内細菌のエサとなり、善玉菌を育てます。
- 発酵食品:納豆、キムチ、ケフィアなどは腸内環境を整え、「ビタミンK2」などの有益な物質を作り出します。
腸内環境が心臓を守る
腸は「心臓の守り神」です。腸内環境が悪化してリーキーガット(腸管壁浸漏症候群)になると、細菌や毒素が血管内に漏れ出し、肝臓で脂肪肝を作り、全身の血管に炎症を起こして動脈硬化を進めます。
便秘は万病の元です。毎日の排便が理想的です。食物繊維を摂り、腸内細菌を多様化させることで、心臓病リスクを示す「冠動脈石灰化スコア」の進行が止まる例も多く見られます。


腸の状態は、自律神経(迷走神経)と直結しています。腸が整うと副交感神経が優位になり、心拍が安定し、不整脈や動悸が改善することも分かっています。
運動は「やりすぎ」に注意
健康のために毎日ランニングをしている方もいるかもしれませんが、過度な有酸素運動(長距離走など)は体内の活性酸素を増やし、心臓の血管を傷つける可能性があります。
【シニアにおすすめの運動】
- 筋力トレーニング:スクワットやプランクなど、自分の体重を使った運動がベストです。筋肉は血糖値を調節する最大の臓器です。
- 短時間の有酸素運動:ウォーキングや軽いジョギングは15〜20分程度で十分です。
- HIIT(ヒット):年齢に応じた「少しきつい運動」と「休憩」を交互に繰り返す運動も効果的ですが、無理のない範囲で行いましょう。

この運動の目的は「疲労困憊すること」ではなく、「筋肉を維持し、代謝を上げること」です。
コレステロールとサプリメントの真実
コレステロール値が高いと薬を処方されることが多いですが、本当の問題は「小型で酸化したLDL」だけです。これが血管壁にこびりつき、プラークを形成します。
この「悪いLDL」を作る原因は、砂糖、加工食品、植物油、そして腸の炎症です。つまり、食事を変えればコレステロールの質も変わります。
【推奨されるサプリメント】
- カルシウム剤は避ける:骨のためにカルシウムサプリを摂ると、逆に血管が石灰化して硬くなり、心臓発作のリスクが上がる可能性があります。
- ビタミンD3+K2:カルシウムを骨に届け、血管に蓄積させないために必須です。現代人の多くがこれらを不足しています。
- マグネシウム:心臓の筋肉の働きを助けます。
- オメガ3(フィッシュオイル):炎症を抑え、血液をサラサラにします。
※ このブログの内容をわかりやすくまとめたインフォグラフィックは、以下のとおりです。

最後に:今日から始める心臓ケア
心臓病の予防は、病院ではなく台所と日々の習慣から始まります。カギを握るのは「炎症」と「インスリン」のコントロールです。
- 12時間以上の空腹時間を作る
- 糖質と加工食品を減らし、食物繊維と発酵食品を増やす
- 植物油をやめ、良質な脂質を摂る
- 激しい運動よりも筋トレと十分な睡眠を優先する
- ストレスを溜めず、リラックスする時間を持つ(ハミングや深呼吸で迷走神経を刺激)
ジャムナダス医師は「過去を悔やんだり、未来を心配したりせず、今この瞬間を大切に生きることが、心の平穏と健康につながる」と語っています。長年の悪習慣があっても、体には修復する力があります。

今日の食事と運動、今日の睡眠が、明日のあなたの心臓を作ります。無理なく、できることから一つずつ始めてみませんか。
《 参考情報 》




