日本銀行の金融政策が大きく変わり、日本の金融環境は歴史的な転換点を迎えています。長く続いた「ゼロ金利の世界」が終わり、日本国債に再び利回りが戻ってきました。今月の日銀金融政策決定会合で、政策金利が0.5%から0.75%に上昇しました。
これまでは「資産を増やす」ことが中心だったかもしれませんが、シニア世代になると「資産を守りながら、人生の質を高めるために使う」段階へ移ります。趣味や社会貢献への活用という明確な出口戦略を持つことは、資産運用において何よりも重要な指針です。

シニア世代にとって、長年積み上げてきた資産をどう守り、どう活用していくかは、これからの人生を安心して過ごすための重要なテーマですね。
本記事では、金利の今後の見通し、日本国債の賢明な選び方、そして人生の質を高めるための資産運用の基本的な考え方について、シニア世代の皆様に向けて分かりやすく解説します。
金利の現状と今後の見通し
国債が「利息を生む安全資産」へ
現在、日銀の政策金利引き上げにより、長期金利が一時2%台に達し、約19年半ぶりの水準となっています。日銀は経済や物価の状況が良ければ今後も追加利上げを行う姿勢を示しており、市場では「金利が上がりやすい状況」がしばらく続くと予想されています。
これまで現金や国債を持っていてもほとんど増えませんでしたが、今後は「ある程度の利息を生む安全資産」としての機能が回復します。ただし、景気悪化や物価安定により金利が下がることもあるため、上下に振れやすい時期であることも意識しておく必要があります。

知っておきたい国債購入の「注意点」
国債は国が元本と利息を保証するため、信用度は極めて高い資産です。しかし「安全=全くリスクがない」というわけではありません。以下の3点に注意が必要です。

- 金利変動と価格の関係: 世の中の金利が上がると、すでに発行されている固定金利の国債の市場価格は下がります。満期まで持てば元本は戻りますが、途中で売ると損をすることもあります。
- インフレのリスク: 国債の利回りが2%でも、物価が3%上がれば、お金の価値は実質的に目減りします。
- 「変動10年」の活用: 金利が上がる局面では、「個人向け国債(変動10年)」が有力な選択肢です。半年ごとに利率が見直されるため、金利上昇に追随しやすく、インフレにも強いメリットがあります。また1年経てばいつでも国が元本で買い取ってくれる(中途換金が可能)安心感もあります。

近年、政策金利は段階的に上昇し、インフレ傾向も続いています。こうした状況では、変動10年の国債が最も有力な選択肢となりますね。
「増やす」から「守り、活かす」へのシフト戦略
年齢を重ねるにつれ、値動きの激しい株式や投資信託の割合を減らし、国債や現金などの「安全資産」を増やすことが推奨されます。資産を「3つのバケツ」に分けて考えるのが有効です。
- 【使うバケツ】(現金・普通預金): 日々の生活費や医療費など、すぐに必要になる資金を保管します。目安は生活費の3〜5年分程度。趣味の活動費や寄付資金なども含めて準備しておきましょう。銀行口座にいつでも引き出せる状態で保管することで、予期せぬ出費にも柔軟に対応できます。
- 【守るバケツ】(個人向け国債・変動10年): 株式や投資信託で得た利益を確実に保全するための領域です。元本の安全性を最優先とし、インフレによる資産価値の目減りから守ります。個人向け国債の変動10年型を活用すれば、金利環境の変化に応じて利回りが調整され、長期的な資産保全と適度な収益確保を両立できます。
- 【増やすバケツ】(株式・投資信託): 長寿化社会における資産寿命を延ばすための領域です。人生100年時代を見据え、資産全体の10〜20%程度を成長性のある資産で保有し続けることで、将来のインフレに対応する力を維持します。完全に現金や国債だけにすると物価上昇に負けるリスクがあるため、適度なリスク資産を残しておくことが重要です。
移行の目安は、60代で現金・国債を50〜80%程度、70代以降はさらにその比率を高め、株式・投信は10〜30%程度に抑えるという考え方です。

一気に売却すると「売った後に値上がりした」という後悔を生みやすいため、毎年1回など、時間をかけて段階的にシフトするのがコツですね。

資産を「人生の生きがい」につなげる
資産運用の最終的なゴールは、数字を増やすことではなく「安心して使い、人生や社会に役立てること」です。
- 趣味や楽しみへの活用: 数百万円単位で購入した個人向け国債から半年ごとに入る「利金」を、旅行や園芸などの趣味の費用に充てる流れを作ります。「利息=楽しみ」という実感が得られます。
- 社会貢献と寄付: 国債の利息や償還金を応援したい団体へ寄付したり、地域活動の資金にすることで、資産が社会を循環する喜びを感じられます。こうした「目的のあるお金の使い方」は、通帳の数字への執着を和らげ、精神的な幸福感を高めてくれます。

一定額以上の資産を家族に残したい方は、事前に相続対策を行うことが重要です。エンディングノートで意思を明確にし、専門家にも相談することをお勧めします。
最後に――穏やかな資産運用のために
今後の金利上昇は、シニア世代にとって安全資産を活かすチャンスです。まずはご自身の年齢や今後の支出(医療・介護・リフォームなど)のタイミングを整理し、それに合わせて国債の満期を設計する「はしご状(ラダー)」の保有を検討してください。
大切なのは、市場の動きに一喜一憂せず、「勝つこと」よりも「負けないこと」、そして「増やすこと」よりも「意義ある使い方をすること」に主軸を置くことです。
ご自身の価値観に沿って、国債と現金でしっかりとした「土台」を作り、無理のない範囲で人生を豊かにする運用を目指しましょう。具体的な配分は、信頼できる専門家に相談するのも安心への近道です。
資産運用の考え方は年代とともに変わります。若い頃は資産拡大に励み、シニア世代ではリスク資産を減らしながら安全資産を増やしていく。そして余剰資金は寄付や自分の楽しみに使う――これが理想的な形ではないでしょうか。
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