健康生活ガイド(歯周病編)

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シニア世代の歯周病は、口腔内だけの問題ではありません。全身の健康や寿命にまで深刻な影響を及ぼす可能性がある重要な病気です。

放置すると、心臓病や脳卒中などの循環器疾患、糖尿病の悪化など、生命に関わる全身疾患のリスクを高めます。この事実は、数多くの医学的研究や臨床データによって明らかになっています。

歯周病は、シニア世代にとって歯を失う最大の原因であり、医療現場では「沈黙の病気(サイレント・ディジーズ)」とも呼ばれていますね。

このように呼ばれる理由は、初期段階では痛みや腫れといった自覚症状がほとんど現れず、本人が気づかないうちに静かに進行してしまうためです。症状を自覚して歯科医院を受診した時点では、既に病状がかなり進行しているケースも少なくありません。

本記事では、シニア世代における歯周病の種類とその特徴、悪化しやすい理由、日常生活で実践できる予防方法、そして歯科医院で受けられる治療法について、分かりやすく解説します。

歯周病とは:症状と進行段階

歯周病は、歯と歯ぐきの境目(歯周ポケット)に溜まった細菌(プラーク)が、歯ぐきや歯を支える骨(歯槽骨)を徐々に破壊する病気です。初期段階では痛みや自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに進行してしまう点が最も危険です。

主な症状と進行段階

歯周病は進行度合いによって、主に次の段階に分けられます。

  1. 歯肉炎(初期段階):歯ぐきの腫れや赤み、歯磨き時の出血が見られる炎症状態です。この段階では歯を支える骨はまだ溶けておらず、適切なセルフケアと歯科医院でのクリーニングで健康な状態に戻せます。
  2. 歯周炎(進行段階):歯肉炎が進行し、歯ぐきの奥の骨まで炎症が広がった状態です。骨が溶け始め、歯周ポケットが深くなります。
    • 軽度〜中等度歯周炎:歯ぐきが下がって歯が長く見えたり、歯がグラつき始めたりします。口臭が強くなったり、口の中のネバつきが増えたりするのもこの段階のサインです。
    • 重度歯周炎:歯を支える骨が大きく失われ、歯が大きく揺れたり、噛むと強い痛みが生じたりします。ここまで進行すると、抜歯が必要になるケースも少なくありません。

シニア世代特有の歯周病と悪化要因

シニア世代では、複数の要因が重なり、歯周病が若い頃よりも進行しやすくなります。

悪化しやすい理由

  • 唾液の減少と自浄作用の低下:加齢や高血圧の薬などの影響で唾液量が減ると、口の中の自浄作用や殺菌作用が弱まり、細菌が繁殖しやすくなります。
  • 歯ぐきの抵抗力の低下:加齢とともに歯ぐきの免疫力や回復力が低下し、同じ磨き残しでも炎症が起こりやすく、治りにくくなります。
  • 全身疾患の影響:糖尿病などの全身疾患がある場合、歯周病が進行しやすくなります。歯周病と糖尿病は相互に悪化させ合う関係にあります。
  • 口腔内の構造変化:入れ歯、ブリッジ、被せ物が多くなると、清掃しにくい段差やすき間が増え、プラークが溜まりやすくなります。
  • セルフケアの難しさ:視力や手先の機能が低下すると、細かい部分のブラッシングが難しくなり、磨き残しが増えます。

シニアに多い特殊な歯周病

  1. 慢性歯周炎:長年のプラークや歯石の蓄積で少しずつ進行し、気づいたときには歯が揺れている、最も一般的なタイプです。
  2. 残存歯周炎:他の歯を失った後、残った数本の歯に噛む力が集中し、その部分が急激に悪化しやすいタイプです。
  3. インプラント周囲炎:インプラントの周りの歯ぐきと骨に起こる歯周病で、専用のケアが必要です。
  4. 根面う蝕(こんめんうしょく):歯周病で歯ぐきが下がり露出した歯の根元(象牙質)にできる虫歯です。象牙質は柔らかく進行が非常に早いため、歯が折れたり、抜歯が必要になったりするリスクがあります。
  5. 薬物性歯肉増殖症:高血圧治療薬(カルシウム拮抗薬など)の副作用で歯ぐきがコブのように盛り上がり、プラークが溜まって歯周病が悪化する悪循環を引き起こすことがあります。

命に関わる!全身疾患との深い関係

歯周病がシニア世代にとって恐ろしいのは、口の中の細菌や毒素が血管を通じて全身に広がり、命に関わる病気のリスクを高める点です。

  • 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん):高齢者の主な死因の一つです。口の中の細菌が誤って肺に入ることで発症します。口腔内を清潔に保つことで、発症リスクを大幅に下げられます。
  • 糖尿病:歯周病治療により、血糖値のコントロールが改善することが分かっています。
  • 心疾患・脳血管疾患:歯周病菌が血流に乗って血管内に血栓を作り、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めます。
  • 認知症:歯周病菌がアルツハイマー型認知症の原因物質の蓄積に関与している可能性が指摘されています。

歯周病の予防法とセルフケア

歯周病予防の基本は毎日のセルフケアです。シニア世代では特に「やり方を工夫すること」が重要になります。

歯と歯茎の健康を保つには、食後の歯磨きに加えて、デンタルフロスよりも歯間ブラシでのケアが重要ですね。

適切なブラッシング

  • 歯ブラシの選択:ヘッドは小さめ、毛はやや柔らかめのものを選びます。歯ぐきが痩せている場合は、「やわらかめ」で歯や歯ぐきを傷つけないようにしましょう。
  • 磨き方:歯と歯ぐきの境目を意識し、力を入れすぎず優しく細かく動かします。特に効果的なのは、ブラシを45度の角度で当てる「45度磨き」です。
  • 回数:最低でも「朝食後と寝る前」の2回は丁寧に行いましょう。

歯間清掃の徹底

歯ブラシだけでは、歯間のプラーク(歯垢)は落としきれません。

  • シニア世代の歯の隙間には、デンタルフロスよりも歯間ブラシが効果的です。
  • ブリッジや被せ物の周囲にも有効です。隙間の広さに合ったサイズ(SSS〜L)を歯科医院で選んでもらいましょう。

生活習慣と口腔乾燥対策

  • 禁煙・節煙:喫煙は歯周病の最大のリスク因子です。禁煙や節煙で歯周病悪化のリスクを下げられます。
  • 食事:砂糖や甘い飲み物を控え、よく噛む食事を心がけましょう。歯や歯ぐきの健康、唾液分泌に役立ちます。
  • 乾燥対策:こまめな水分補給や、耳の下・顎の下を優しくマッサージする唾液腺マッサージで唾液の分泌を促しましょう。

入れ歯・要介護者のケア

  • 入れ歯の清掃:毎日専用ブラシと洗浄剤で洗い、口内の粘膜や残存歯も清掃します。合わない入れ歯は歯周病を悪化させるため、違和感があれば早めに調整が必要です。
  • 要介護者:セルフケアが困難な場合は、介護者による口腔ケア支援や訪問歯科診療の利用が推奨されます。口腔ケアで誤嚥性肺炎のリスクは大きく低下します。

歯科医院でのプロケアと治療

シニア世代では、セルフケアだけでは限界があるため、定期的な歯科医院でのプロケアが欠かせません。

定期検診とメインテナンス

3〜6か月ごとの定期検診で、歯ぐきの状態をチェックし、クリーニングを受けることが推奨されています。

治療後の「メインテナンス(SPT:サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー)」も欠かせません。歯周病は「治ったら終わり」ではなく、「コントロールしながら付き合う病気」だからです。

主な治療法

  1. 基本治療(スケーリング・ルートプレーニング):専用器具で歯石や歯の根面(ルート)の汚れを徹底的に除去し、細菌の棲みかを減らします。
  2. 薬の応用:炎症部位を洗浄し、必要に応じて抗菌薬入りの薬剤を歯周ポケット内に注入して改善を図ります。
  3. 外科的歯周治療:重度の場合や基本治療で改善しない深い歯周ポケットがある場合は、歯ぐきを開いて感染組織や歯石を除去する手術(フラップ手術など)を行います。骨の再生を促す「歯周組織再生療法」が適用されることもあります。

最後に

シニア世代の歯周病は、長年蓄積された歯垢や歯石、加齢による免疫力の低下、糖尿病や循環器疾患などの全身疾患が複雑に絡み合って進行します。若い頃からの口腔ケアや生活習慣が長期的に積み重なった結果、高齢期に重症化するケースが多く見られます。

歯周病は、歯を失うだけでなく、誤嚥性肺炎や心疾患、糖尿病の悪化など重大な全身疾患を引き起こす危険性があります。口腔内の健康は全身の健康と密接に関連しており、歯周病を放置すると、生活の質が大きく低下し、命に関わる病気のリスクも高まります。

「もう年だから手遅れ」ということは決してありません。痛みが出る前に定期的に歯科医院へ行く習慣をしっかりと持ち、毎日のセルフケアと3〜6か月ごとのプロフェッショナルケアを両立させることが、健康寿命を延ばし、生活の質を維持するための秘訣です。

適切な口腔ケアをすることで、健康な歯を大切に保ち、毎日の食事をおいしく楽しみましょう。

《 参考情報 》

健康生活ガイド(口腔ケア編)
私は、公務員時代に歯科衛生に関するセクションを担当する経験がありました。当時は、「8020運動」をスローガンに歯の衛生週間の強化を進めていました。「8020(ハチ・マル・二イ・マル)運動」とは、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」...
日本歯科医師会
我が国の歯科医療及び社会福祉の発展向上に努めています。
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