健康生活ガイド(成人喘息編)

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喘息(ぜんそく)は、気道の慢性的な炎症により、発作的に咳・息苦しさ・ゼーゼー音(喘鳴)などの症状が現れる病気です。以前は主に子どもの病気と認識されていましたが、近年では60歳以上のシニア世代における新規発症が著しく増加しています。

シニア世代の喘息は、加齢による身体機能の低下や呼吸器系の変化、他の慢性疾患を合併しやすいことから、若年層とは異なる特徴を持っています。

治療の目標は「完全に治すこと(完治)」よりも「適切にコントロールすること」にあります。つまり、気道の炎症を抑え、急性発作を予防することが最も重要なポイントです。

シニア世代で発症した喘息は完治が難しく、症状が落ち着いても長期間にわたる適切な薬物療法の継続が必要ですね。

この記事では、シニア世代の喘息について、その種類、高齢者特有の特徴、発症や悪化の原因、効果的な治療法、そして日常生活でできる対策方法をわかりやすく解説します。

シニア喘息の種類と病態

シニア世代の喘息は主に「気管支喘息」と「咳喘息」に分けられます。以下では、中高年に特徴的な病態を解説します。

成人期以降に発症する喘息

中高年以降に発症する「後天性喘息」は、非アトピー型(内因性喘息)が多く、感染症、薬剤、環境要因が引き金となります。女性に多く見られ、閉経後のホルモン変化、肥満、生活習慣が関係しています。

特徴:痰を伴う咳が長引く、発作が夜間や早朝に多い、気温・湿度の変化に敏感、風邪をひくと悪化しやすいといった点が挙げられます。

混合型喘息(ACOS:喘息とCOPDの重複症候群)

喫煙や職業性粉じんで気管支や肺が弱ったところに喘息が合併する病態です。喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)が同時に発症するケースが多く、ACOS(Asthma-COPD Overlap Syndrome)と呼ばれます。この場合、治療が複雑化します。

特徴:息切れや咳が長期的に続き、安静時にも苦しいことがあります。発作が重くなりやすく、入院率が高い傾向があります。また、吸入薬への反応がやや鈍いため、注意が必要です。

アレルギー型喘息

シニア世代でも、ハウスダスト、ダニ、カビ、ペットなどが原因のアレルギー性喘息(アトピー型喘息)が存在します。加齢による免疫バランスの変化や長年のアレルゲン曝露により、突然症状が現れることもあります。

比較的軽症ですが再発しやすく、鼻炎やアトピー性皮膚炎を併発しやすいのが特徴です。

高齢者特有の課題と重症化リスク

高齢者の喘息は、複数の要因により診断と治療が困難です。

  • 症状の非典型性:高齢者は典型的な喘鳴を感じにくく、「長引く咳」や「息切れ」として見過ごされがちです。風邪や加齢との区別が難しく、発見が遅れることがあります。夜間・明け方・運動後に悪化しやすいのが特徴です。
  • 多疾患の合併COPD、心不全、胃食道逆流症(GERD)、肺気腫など、他の疾患と症状が重なりやすいため、専門医による鑑別診断が必要です。
  • 治療手技の困難さ:喘息治療の中心は吸入薬ですが、高齢者では手の震え、視力低下、握力低下、認知機能の低下などにより、正しく吸入できないケースが多く見られます。
  • 高い重症化・致死リスク:免疫力の低下により、感染症や急性増悪から重症化しやすく、若年層に比べて致死リスクが高まります。

主な原因と悪化要因

高齢者の喘息は、生活習慣や身体の変化が複雑に関わっています。

  • 感染症風邪、インフルエンザ、肺炎は喘息悪化の最大の要因で、発作の引き金となります。
  • 喫煙:喫煙は最大のリスク要因です。受動喫煙も危険です。
  • 薬剤:一部の降圧薬(β遮断薬など)が気道を狭めることがあります。
  • 住環境:カビ、ダニ、ホコリ、冷暖房による急激な寒暖差や乾燥も悪化要因です。
  • 体調:ストレス、疲労、運動不足(呼吸筋の衰え)も発作を起こしやすくします。

診断と治療の基本戦略

診断

心臓病やCOPDと症状が重なりやすいため、専門医による診断が不可欠です。診断では、呼吸機能検査(スパイロメトリー)で息を吐く量やスピードを測定し、気道過敏性検査で気道の反応性を調べます。また、血液・アレルギー検査でIgE抗体や好酸球の有無を確認します。

治療の柱:長期管理薬(コントローラー)

現在の喘息治療は吸入療法が中心です。

  • ICS(吸入ステロイド):気道の炎症を抑える治療の根幹となる基本薬です。毎日継続して使用します。
  • LABA(長時間作用型$\beta_2$刺激薬):気管支を広げる薬です。ICSと一体化した配合吸入薬(ICS/LABA)が多く使われ、朝夕1回の吸入で効果を維持できます。
  • LAMA(長時間作用型抗コリン薬):COPDを合併しているケース(ACOS)などで特に有効な気管支拡張薬です。
  • 経口薬:抗ロイコトリエン薬やテオフィリン薬、重症時にはステロイド薬などを併用します。ただし、経口ステロイドの長期使用は骨粗しょう症や高血圧などの副作用に注意が必要です。
  • 重症例:従来の治療でコントロールが難しい難治性喘息には、アレルギー性炎症を抑える生物学的製剤(注射薬)が適用される場合もあります。

治療上の重要な注意点

高齢者は吸入薬の誤使用が多いため、医師・薬剤師による継続的な吸入指導を受け、正しい吸入方法を習得することが重要です。また、合併症の治療薬(高血圧薬、心臓病薬など)との相互作用を避けるため、総合内科や呼吸器専門医との連携が不可欠です。

予防法とセルフマネジメント

喘息の悪化や重症化を防ぐには、日常生活での自己管理(セルフマネジメント)を習慣化することが大切です。

感染症予防と体調管理

  • 感染症対策:風邪やインフルエンザを予防するため、手洗い・うがい、マスク着用を徹底しましょう。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が強く推奨されます。
  • 生活リズム:規則正しい生活、十分な睡眠、ストレス管理により自律神経を整え、発作を予防します。
  • 運動:医師と相談の上、ウォーキングや呼吸リハビリなど適度な運動で呼吸筋や肺活量を維持しましょう。

 環境整備とアレルゲン回避

  • アレルゲン対策:ダニやハウスダストがたまりやすいカーペット、畳、寝具を清潔に保ちましょう(寝具は週1回洗濯推奨)。
  • 室内環境:エアコンや加湿器のフィルターを定期的に清掃します。寒暖差が発作の引き金になるため、室温を一定に保ち、適切な湿度(50%程度)を維持しましょう。
  • 刺激物回避禁煙は必須です。受動喫煙も避けましょう。

 自己管理の徹底と早期受診

  • 記録:毎日の症状(咳、息苦しさ、吸入回数など)を喘息日記に記録し、病態の変化を把握します。自宅で肺機能を測るピークフローメーターの活用も有効です。
  • 医療連携:症状が変化したら、吸入薬を指示通りに正しく使用しながら早めに受診しましょう。「夜中に咳で眠れない」「坂道で息切れがひどくなった」「吸入をしても改善しない」といった場合は、特に早期受診が必要です。
  • 家族のサポート:高齢者は症状の悪化に気づきにくい場合があります。ご家族や介護者が症状を観察し、治療をサポートすることも不可欠です。

おわりに

シニア世代の喘息は症状がわかりにくく他の病気と合併しやすい特性があります。早期の正確な診断合併症を考慮した治療計画正しい服薬・吸入の継続が、QOL維持と重症化予防の鍵です。

中高年以降の喘息は、加齢による身体機能の変化、感染症への脆弱性、生活習慣などが複雑に絡み合う慢性呼吸器疾患です。最も重要なのは「気道の炎症を抑え、発作を予防する」こと。日々の治療で慢性炎症をコントロールすれば、症状の安定化と将来的な悪化の防止につながります。

シニア世代の喘息は診断・治療が難しいものの、適切な予防・治療・生活改善で発作や合併症は十分に防げます。呼吸器専門医との連携、環境整備、自己管理と治療の定期的な見直しを心がけましょう。ご家族のサポートを得ながら、生活全体を見直すことも大切です。

定期的な医師の診察と薬剤師の指導を受けながら、「自分の喘息をコントロールする」意識を持てば、シニア世代でもQOLを大きく向上できます。適切な治療と日常的なケアの積み重ねが、活動的で充実した毎日につながります。

《 参考情報

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