過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome、以下IBS)は、腸自体に炎症や潰瘍といった目に見える身体的な異常や病変がないにもかかわらず、慢性的に腹痛や便通異常(下痢や便秘)を繰り返す機能性消化管障害です。
日本では人口の約10~15%が悩んでいるとされ、若年層から中年層に多く見られます。ストレス社会といわれる現代において増加傾向にある疾患です。IBSは命に関わる病気ではありませんが、日常生活に大きな支障をきたし、生活の質(QOL)を著しく低下させることが特徴です。
IBSでは、腸の内部に炎症や潰瘍などの目に見える器質的な異常が全く検出できないものの、慢性的かつ繰り返し発生する腹痛や便通異常(下痢や便秘、またはその両方)に悩まされます。消化管の機能に問題が生じているにもかかわらず、内視鏡検査や画像診断では異常が見つからないという特徴があります。
本記事では、IBSの主な原因、種類と症状、予防対策、そして治療法について分かりやすく解説します。
IBSの主な原因
IBSは複数の要因が複雑に絡み合って発症します。腸管運動の異常、内臓過敏、心理的要因、食生活、腸内細菌バランスの変化が相互に作用し、症状は個人によって異なります。
脳と腸の連携の乱れ(脳腸相関)と知覚過敏
腸は「第二の脳」と呼ばれるほど神経が豊富で、脳と密接に連携しています。強いストレスや不安は自律神経のバランスを崩し、腸の動きを異常にして腹痛や便通異常を引き起こします。また、腸の「知覚過敏」も主要な原因となっています。

腸内環境の乱れ
腸内細菌のバランスの崩れや、食中毒・腸炎後に発症する「感染後IBS」も見られます。腸内環境の悪化はガス産生を増加させ、腸の感受性を高めることで、腹部膨満感や便通異常を引き起こします。
食習慣と体質
乳製品、小麦、豆類、タマネギなどの特定の糖質(高FODMAP食品)は腸内で発酵しやすく、ガスや膨満感を悪化させることがあります。また、遺伝的要素や生まれつきの腸の過敏性も発症に関与していると考えられています。

私も強いストレスや緊張などが続いたときに、自律神経のバランスが崩れ、腹痛や便通異常が引き起こされることがありますね。
IBSの種類と症状
IBSは、便通のパターンによって以下の主に4つのタイプに分類されます。
種類 | 主な症状 | 傾向 |
---|---|---|
下痢型 | 急な便意と水様便。緊張する場面で出やすい。 | 若年層・男性に多い。 |
便秘型 | 硬い便、排便困難、残便感。腹痛やお腹の張りも。 | 女性に多い。 |
混合型 | 下痢と便秘が交互に現れる。症状が予測しにくい。 | 性別関係なく発症。 |
ガス型 | お腹にガスが溜まり、膨満感やおならが増える。 | 食習慣やストレスの影響。 |
これらの症状は長期間にわたり断続的に続きますが、腸自体に器質的な異常は見られないのが特徴です。主な症状は以下の通りです。
- 慢性的な腹痛・腹部不快感:便通異常と連動しやすい。
- 下痢または便秘、あるいはその両方:便通のパターンはタイプによって異なります。
- 急な便意、残便感:排便後もすっきりしない感覚が残ることがあります。
- お腹の張り(腹部膨満感):ガスが多くなります。

排便によって一時的に痛みが和らぐことが特徴的です。症状が現れると、通勤や外出が困難になり、日常生活の質が著しく低下します。
IBSの予防対策
症状緩和のためには、以下のとおり発症要因となるストレスや生活習慣の乱れを改善することが重要です。
食生活の工夫
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- 規則正しい食事:3食をよく噛んでゆっくり食べ、腸のリズムを整えます。
- 刺激物を控える:コーヒー、アルコール、香辛料、脂質の多い食事は腸を刺激する可能性があります。
- 特定の糖質(高FODMAP食)の調整:小麦、乳製品、豆類、タマネギなど、腸でガスを発生させやすい食品の摂取を減らす「低FODMAP食」が有効な場合があります。
- 食物繊維:便秘型には水溶性食物繊維(オートミール、野菜、果物、海藻など)が有効です。下痢型でも水溶性食物繊維を意識して摂ると良いでしょう。
ストレスマネジメント
十分な睡眠と規則正しい生活を心がけた上で、以下の行動をとりましょう。
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- 適度な運動:ウォーキング、ヨガ、ストレッチなどは自律神経を整え、ストレス軽減につながります。
- リラクゼーション:深呼吸、瞑想、入浴、アロマテラピーなど、リラックスできる時間を設けます。

私の場合は、ストレスをためると下痢になる場合があります。 心理的ストレスがIBSの大きな引き金となるため、ストレスを溜めない工夫が重要ですね。
その他の生活習慣
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- 朝食後にトイレに行く習慣をつけます。
- 長時間の便意の我慢や過度の下剤使用は避けましょう。
- 禁煙し、過度なアルコール摂取も控えましょう。
IBSの治療法
IBSの治療は、症状の軽減と生活の質(QOL)の改善を目的に、複数のアプローチを組み合わせることが一般的です。
- 薬物療法 症状に応じて、腸の動きを調整する薬(下痢止めや便秘薬、整腸剤など)が処方されます。腸の知覚過敏を和らげる薬も使用されます。また、脳腸相関の改善を目的に、抗不安薬や抗うつ薬が処方されることもあります。
- 食事療法 医師や管理栄養士の指導のもと、症状を悪化させる食品を特定し、食事内容を見直します。低FODMAP食の実践や、適切な食物繊維と水分補給が重要です。
- 心理療法 ストレスや不安がIBSに大きく影響するため、心理的なアプローチも効果的です。認知行動療法(CBT)により、症状に対する不安や恐怖感を軽減する訓練を行います。
- 生活指導 根本的な改善には、ストレスのコントロールが不可欠です。規則正しい生活、十分な睡眠、適度な運動など、日常の生活習慣を見直すことが重要です。
- 新しい治療アプローチ 腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の研究が進んでおり、便移植療法や新しい整腸剤の開発も進行中です。

おわりに
過敏性腸症候群(IBS)は、腸に明らかな異常がないにもかかわらず腹痛や下痢・便秘が繰り返される病気です。その発症には腸の運動異常、脳腸相関の乱れ、ストレス、腸内細菌のバランスなどが複雑に関与しています。症状は「下痢型」「便秘型」「混合型」「ガス型」「分類不能型」に分類され、いずれも日常生活に大きな影響を及ぼします。
IBSは命に関わる病気ではありませんが、長期化すると生活の質を著しく低下させます。気になる症状が続く場合は自己判断を避け、早期に消化器内科を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
治療には生活習慣や食事の工夫、薬物療法、心理療法などを組み合わせた多角的なアプローチが効果的です。特にストレス管理と食生活の改善が症状緩和の鍵となります。

IBSは生活の質に大きく影響するため、心配な症状がある場合は早めに専門医に相談しましょう。適切な治療と自己管理で症状を和らげ、より快適な日常生活を取り戻すことができます。
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